Aタイプの中毒を起こす猛毒きのこ

-激しい下痢・腹痛,肝・腎臓障害,10時間後に症状-

〔中毒の特徴〕このタイプの毒は細胞を破壊し,肝臓,腎臓に障害を与え死をもたらすもので,発症までに6時間以上,通常10時間かかるのが特徴である.

 

〔毒成分と中毒症状〕毒成分としてはは環状ペプチド(アマニチンやファロイジンなど)とモノメチルヒドラジン(ギロミトリンなど)の2種類の異なるタイプが知られている.
  中毒症状は激しいコレラ様の下痢と腹痛,嘔吐などで,このタイプの中毒がきのこ中毒の中でもっとも危険なものである.我国のきのこ中毒による年平均2名 の死者はほとんどがこのグル-プのきのこによる.致死量はきのこの種類にもよるが,ドクツルタケ,シロタマゴテングタケなどのテングタケ類やニセクロハツな どの大型のきのこでは1-2本が致死量と思われる.

 

 このタイプの中毒を引き起こすきのこには次の2つのグル-プがある。以下に第1, 第2グル-プとして示した.

 

第1グル-プ:環状ペプチド(アマニチンやファロイジンンなど)による中毒(致命的)を起こす猛毒きのこ
ドクツルタケ Amanita virosa
シロタマゴテングタケ Amanita verna
タマシロオニタケ Amanita abrupta
タマゴテングタケ Amanita phalloides
*タマゴタケモドキ Amanita subjunquellea
コテングタケモドキ Amanita pseudoporphyria
*フクロツルタケ Amanita volvata
*ドクアジロガサ(コレラタケ) Galerina fasciculata
ニセクロハツ Russula subnigricans


〔毒成分〕
〔きのこの見分け方〕
〔治療法〕


第2グル-プ:モノメチルヒドラジン(ギロミトリン)による中毒(致命的)を起こす毒きのこ
シャグマアミガサタケ Gyromitra esculentaなど
春先に高山の針葉樹林帯に発生する。生で食べると中毒するが,よく料理したものや,乾燥したものは,食用とされる.

 

〔毒成分と治療法〕

 

シャグマアミガサタケ Gyromitra esculenta
シャグマアミガサタケ Gyromitra esculenta

 

Aタイプの中毒を起こす猛毒きのこ
〔毒成分〕

 


〔毒成分〕ヨ-ロッパでタマゴテングタケ(Amanita phalloides)の毒成分として ファロイジンがLynen と Wieland, H. により1937年に分離された.戦争で構造決定は中断されたが,1962年にアミノ酸の配列が発表された.ファロイジンはアミノ酸7個からなる環状ペプチ ドで,その後構造決定された類似の一群の化合物とともにファロトキシン類(phallotoxins) と総称される.

 

 Lynen と Wielandは,まだ純粋に出来ないが,より強い毒性の化合物があると報告していた化合物が1941年ついに Wieland, H. と Hallermayerらにより結晶化され,アマニチンと命名された.のちにこれはアミノ酸8個からなる環状のペプチドであることが判明し,類似の一群の 化合物とともにアマトキシン類(amatoxins) と総称される.

 

 またドクツルタケ(Amanita virosa) はファロトキシン類とアマトキシン類のほかに,ビロトキシン類(virotoxins)を含むことが判明した.

 

 ファロトキシン類は速効性で,F-アクチンに特異的に結合し,膜を特異的に破壊する.動物(マウスやイヌ)の腹腔にファロイジンを注射すると1~2時間 で症状があらわれる.肝臓細胞の膜が破壊されるため,それが血栓となり,肝臓に多量の血液が急激に蓄積し,そのショックで動物は死亡する.
 しかし ファロトキシン類とビロトキシン類は経口的に与えたものは(腸管から吸収されず),毒性を示さないため,きのこ中毒に関係しないとの考えもある.

 

 アマトキシン類は15時間くらいで症状が表われる遅効性の毒で,ファロトキシンに比べ10倍ほど毒性は強い.アマトキシン類は9つの化合物が知られ,猛毒の本体はアマニチンで,αアマニチンのヒトに対する致死量(LD50) は0.1mg/kg (p.o.)である.従って体重 60 kgの人は 6mgのアマニチンを摂取すると致死量(LD50) に達することになる.一方, 生のAmanita phalloidesの幼菌(25g)中にはアマトキシンを5-11mg含み, 致死量(LD50)に達していることがわかる.

 

Bodenmuellerらの分析によるとAmanita phalloides中のアマトキシンの46% はひだに含まれ,のこりが傘 (22%), 柄(23%), つぼ (9%) の部分に含まれていた.

 

αアマニチンは真核生物のRNA ポリメラ-ゼ II と特異的に結合するため,DNA の遺伝情報がm RNA に転写できなくなり,その結果タンパク合成が阻害される.このタイプの毒を持つきのこの水抽出物をマウスに与えると,肝臓の異常に敏感に反応する血液中の酵素SGOT(serum glutamic oxaloacetic transaminase) などが劇的に増加し,血中のグリコ-ゲンが減少し,血中の尿素窒素は増加する.

 

 


Aタイプの中毒を起こす猛毒きのこ
〔きのこの見分け方のポイント〕

 


〔きのこの見分け方のポイント〕テングタケ科のきのこには食用とされるものと,猛毒のものがあり,食毒に関しては見分け方の一般的な法則がなく,経験のみが頼りなので, 大変困る.

 

 ドクツルタケと シロタマゴテングタケはともに我国に広く分布し,きのこ中毒での死亡例の大部分はこの両者による.両者はともにきのこ全体が白色で,区別しにくいが,ドク ツルタケは柄の表面に白色の鱗片があり,傘の表面にうすい水酸化カリウムの水溶液をつけると,鮮やかな黄色になるのでシロタマゴテングタケとは区別できる (1-10% 程度の水酸化カリウム水溶液ならよい).

 

ドクツルタケ Amanita virosa                                                                (橋屋 誠 氏撮影)
ドクツルタケ Amanita viros (橋屋 誠 氏撮影)

 タマゴテングタケはヨ-ロッパでは普通に見られるきのこであるが,我国では非常に稀である(北海道では時々見かけるという).ひだに濃硫酸を1滴つける と淡紅紫色に変色する.この反応はこのきのこに特有なのでヨ-ロッパではよく用いられる.ヨ-ロッパにおいては,Wieland らによるこのきのこの毒性分に関する100 年以上にわたる研究の歴史がある.

 

 タマゴタケモドキは広く分布し,傘と柄はくすんだ黄色で,柄に細かい鱗片がある.
 コテングタケモドキはアカマツ・コナラ林に普通に見かける大型の日本特産のテングタケの仲間で,傘は褐色を帯びた灰色.白色でやや先のとがるつぼを持 つ.このきのこが環状ペプチドを含むかどうかは調べられていないが,GABAの合成を阻害するアミノ酸であるアリルグリシン(allylglycine) とプロパルギルグリシン (propargylglycine) が単離された.共に細菌に対し生長阻害作用があり,前者はラット腹腔内に注射するとけいれんを伴う中毒を起こす.これはこの化合物がGABAの生合成に関 係するグルタミン酸デカルボキシラ-ゼを阻害し,脳内のGABAのレベルを下げることにより発現すると考えられている.上記の 2種のアミノ酸のほかに不飽和のアミノ酸 4種類が単離されている .

 

タマゴタケモドキ Amanita subjunquellea
タマゴタケモドキ Amanita subjunquellea

 タマシロオニタケは 全体が純白であるが,柄の基部がカブラ状に著しく膨れる.1978年長野県でタマシロオニタケと思われるきのこを 2名が食べ,2名とも死亡している(河原 勲氏私信:当時は正確に同定できず,厚生省の全国食中毒事件録にはテングタケ類ではないかと推定している).山 浦らによると水抽出物はマウスに有毒である。環状ペプチドは調べられていないが,4 種のアミノ酸が単離されている.すなわち 2 -アミノ-5-クロル - 6 -ヒドロキシ-4-ヘキセン酸(2-amino-5-chloro-6-hydroxy-4-hexenic acid),アリルグリシン,プロパルギルグリシン,2 -アミノ- 4, 5- ヘキサジエン酸である.

 

タマシロオニタケ Amanita abrupta
タマシロオニタケ Amanita abrupta

 フクロツルタケは全体が白~淡褐色で,傘や柄の表面は綿くず状の小鱗片におおわれ,大きなつぼを持つ.肉は傷つくと次第に淡紅色になる.

 

フクロツルタケ Amanita volvata
フクロツルタケ Amanita volvata

 ドクアジロガサは腐った木材などから発生し,胞子は褐色で,表面にいぼがある.よく似たものにセンボンイチメガサKuhneromyces mutabilisがあるが,胞子の表面は平滑なので,顕微鏡で調べれば区別できる.

 

ドクアジロガサ(コレラタケ) Galerina fasciculata
ドクアジロガサ(コレラタケ) Galerina fasciculata

 ニセクロハツは クロハツRussula nigricans に似るが,クロハツがひだや肉を傷つけると,赤変し,その後黒くなるのに対し,ニセクロハツは赤変するが,黒くならない.最近3種のアミノ酸 (2S,3R)-(-)-3-hydroxy baikiain,baikiain, pipecolic acid が単離された.

 

ニセクロハツ Russula subnigricans
ニセクロハツ Russula subnigricans

 最初のものは菌体中に高含量(1.4%)で含まれ,毒性はない.2番目のものはグルタミン酸のアンタゴニストとして作用することが知られている.3番目の化合物は脳内リジンの主要代謝産物で,脳内GABA系との関係が示唆されており,今後の研究が期待される.

 


Aタイプの中毒を起こす猛毒きのこ
〔治療法〕

 


〔治療法〕完全な治療法はないが,入院し,吐剤,下剤の投与,胃内洗浄,かん腸などにより毒物を消化管より取り除いた り,血液の電解質バランスの確保, 血液の人工透析, あるいは下痢による水分低下には水分の補給,血糖の低下にはブドウ糖の静脈注射を日に4~5回行なう.チオクト酸やビタミンCの注射などもある程度の効果 がある.最近注目されているバスチアン法を下に記す.

 

〔猛毒テングタケ類中毒の治療法の1例-バスチアン法〕
 フランスの医師 Bastienが,1971年と1974年に猛毒のタマゴテングタケ ( Amanita phalliodes)を自ら試食し,考案した治療法で,バスチアン法(the Bastien method)と呼ばれている.
 彼は1971年にこのきのこを1本試食したが,ビタミンC注射をしなかったので強い肝炎にかかった.1974年には4本(65 g) 食べた.今度は下痢はしたが,肝炎にはかからず,2日目に完全に回復した.

 

 メディカル・トリビュ-ン(1981・11・19) によると,フランスでは11の地域の毒物センタ-でこの治療法が採用され,ナンシ-のセンタ-ではこの方法で療法した50例中,46例が完全に回復したと 報じている.また,死亡した 4例中 3例は症状が現われてから48時間以上たってセンタ-に運ばれたものだという.

 

 Bastienによると猛毒テングタケ類を食べた直後の3日間は次のような治療法がよいという.
 1. ビタミンC 1gを朝と夕方静脈注射する.
 2. 消毒薬として(下記のいずれかを:経口)服用.
   nifuroxazid + neomycin (6 of each a day)または
   nifuroxazid + dehydrostreptomycin (6 of each a day)
 3. 2日目以降は lactic ferments
 4. 最初の2日間の唯一の食べ物は:すりつぶしたニンジン(mashed carrots) .
 5. もし患者がひどく嘔吐するようならmetoclopramid の筋肉内注射.

 

詳細は1978年11月1-3 日Heidelbergで開催されたInternational Amanita Symposium の結果をまとめた Amanita Toxins and Poisoning.p.211-215 をご参照下さい.


 

Aタイプの中毒を起こす猛毒きのこ
〔毒成分と治療法(第2グループ)〕

 


〔毒成分〕生のシャグマアミガサタケからListとLuft (1967)がギロミトリンを抽出し,構造を決定した.そして生のきのこ1kg あたり1.2-1.6 g のギロミトリンを含んでいることを発見した.しかし,時に,ヨ-ロッパでは乾燥きのこを食べて中毒することがあり,Shumidlin- Meszaros(1974)が分析したところ,乾燥シャグマアミガサタケ1kg当たり0.5-3g 程度のギロミトリンが含まれ,そのうちの25% がより毒性の強いモノメチルヒドラジン(MMH)であった.ギロミトリン,MMH の沸点はそれぞれ,64℃, 86℃であるから,料理中に立ちのぼる湯気を吸い込むと中毒し,料理人が倒れるので要注意.このきのこ毒の最近の研究動向は,同夫人の総説を参照されたい.

 

 ギロミトリンのウサギに対するLD50(経口)は50 mg/kg である.
 MMH のマウスに対するLD50(経口)は33 mg /kg .サルではMMH を毎日2.5 mg/kg ずつ20日間,あるいは 5 mg/kg ずつ 3日間連続投与では影響はないが,1 日あたり7-10mg/kg の割りで3日間与えると嘔吐,けいれんを起こし,4日目で全部死亡する.

 

〔治療法〕解毒剤としてピリドキシンがあり,この塩酸塩25 mg/kgの静脈注射が有効である.