毒きのこではないが中毒の報告のあるもの

 


 古くなって腐り始めたマツタケを食べると中毒する.これは食後20-30 分して,胸がむかつき,激しい嘔吐を伴う症状で,下痢,腹痛,発熱は通常伴わない.嘔吐すると治癒する.腐敗マツタケによる中毒は井上伊造氏の詳細な研究がある.それによると,腐敗により生じたヒスタミンを主体としフェニ−ルエチルアミンが相乗的に働くと猛烈な中毒(嘔吐)になるという.

 

 シイタケ(Lentinula edodes) は胞子を多量に吸い込むと喘息様のアレルギ−を引き起こすことが知られている.またシイタケを焼いて食べ,身体に赤い発疹が出た例や,シイタケ採取後にかゆみ(痒み)をともなった皮膚炎が発生した例が報告されている.

 ナメコ(Pholiota nameko) も胞子吸入によると思われる中毒例の報告がある.作業時に密閉されたビニ−ルハウスや栽培室内で,栽培きのこの胞子を多量に吸い込むことは避けたほうがよい.

 

 その他,生で食べると中毒するきのこが欧米では古くから知られている.

 わが国の食生活が欧米化し,きのこをサラダとして生食する機会が増えたので,生で食べた場合の中毒が増えている.調理不十分な場合も中毒するので,注意したい.

 生食すると中毒するものとして,我が国からは,以下のきのこが知られている.

エリンギ,コウタケ,シャグマアミガサタケ,シイタケ,ドクベニタケ,ヒダハタケ,マイタケなど.近年は欧米でもシイタケの袋栽培が行われ,欧米でシイタケによるアレルギー性の中毒が増えている.よく調理して食べるよう欧米の病院では指導している.

 

 最後に,シアン生産菌(cyanogenic fungi)による中毒について述べる.

2004年9月 から,東北から北陸にかけて,スギヒラタケによると考えられる中毒で透析を受けている人が急性脳症で死亡する事件が多発した.死亡例を調べた結果,スギヒラタケを食べた場合が 最も多かったが,マイタケやエリンギを食べた場合も,急性脳症で死亡していた.急性脳症に関係するきのこはいずれもシアン生産菌であることから,シアンに よる中毒死と考えられる.中毒者の最も多かった秋田県の中毒症例と食事との関係を解析した結果,腎臓に障害のある方1名はマイタケを食べて死亡していた.また,スギヒラタケを食 べて死亡した3名は,腎臓に障害のない方であった[権守邦夫ら:中毒研究,  22 (1),  61-69  (2009)]

急性脳症の原因究明の経過〜3種のシアン生産菌が関与

 

 きのこのなかには猛毒のシアン化水素(HCN)を生産するものがあり,シアン生産菌とよばれる.

 日本のシアンを生産するきのこのなかには,スギヒラタケやコガネタケのような野生きのこや,マイタケやニオウシメジなどのように栽培されて,食用にされるものもある.これらのきのこは体内でシアン化水素(HCN)を合成・蓄積し,HCNの一部を体外にも放出している.

 わが国のシアン生産菌として現在までに,以下のきのこが確認されている.

アカアザタケ,アカチャイヌシメジ,アマタケ,オオホウライタケ,エリンギ,キイロアセタケ,コガネタケ,スギヒラタケ,ニオウシメジ,ホテイシメジ,マイタケ,ワサビカレバタケなど.これらのきのこは子実体が若いときはシアン化水素の発生量は少ないが,成長し成熟期から老熟期になると,シアン化水素の発生量が増える.

 

 透析を受けている人はシアン生産菌にはとくに注意をはらい,絶対に食べないこと.また,健康な人もこれらのきのこは多量に食べると中毒し,場合によっては死亡するので,十分に注意すること.

 日本ではマイタケやスギヒラタケは,古くから食用にされてきた.また,ニオウシメジも赤道をとりまく熱帯の国々では,広く食用にされている.これらのきのこは,いずれも,よく調理して(十分に沸騰させ:5分以上,またはよく焼いて),一度に多量に食べないよう注意したい.マイタケ,スギヒラタケ,コガネタケなどは,古くなったものを食べないよう注意しながら,伝統的に,安全な食べ方を考案したのではないかと考えられる.例えば,マイタケはよく料理したり,乾燥して食用とされるが,生で食べた場合は,中毒した例が知られている.

 

 熱帯地域において広く栽培されるキャッサバにも微量のシアンが含まれているが,デンプンを粉末にし,水にさらして食用にされている.南米原産のこの植物が,アフリカで栽培されるようになり,水でさらす技術を知らないアフリカの一部の地域では,シアンによる慢性中毒や癌が発生し,国際的な問題となっている.

 


※ 井上伊造氏の研究成果は「栄養と食料」誌上の以下の巻とページに「松茸に関する生化学的研究」1〜15報として報告されている:

14: 251-254 (1961),  14: 255-256 (1961),      14: 404-410 (1962),  14: 459-461 (1962), 
14: 462-466 (1962), 15: 93- 95 (1963), 15: 392-397 (1963), 17: 67- 68 (1964),
17: 69- 79 (1964), 17: 148-156 (1964), 17: 157-160 (1964), 20: 234-239 (1967),
23: 532-536 (1970), 23: 537-543 (1970), 23: 544-543 (1970).