はじめに


  我国のきのこ中毒は厚生省の統計によると,戦後年々増加する傾向にあったが,平成になる頃から次第に減少している.そ れに伴い,きのこ中毒による死亡者も近年は年平均1~2名程度で,減少傾向にある(表参照)

 

 我国のきのこは1500種ほどが記載されているが,これは我国のきのこフロラの 3分の1程度にあたり,依然として不明種が多く,きのこの同定は,大変困難である.ましてや毒成分の研究も2,3のきのこを除 いて十分に行なわれているとは言え ない.試薬などによる検定法は,試みられてはいるが,すべてのきのこに適用できるものはない.

 

 きのこ中毒が起きた場合,毒成分を検出して,処置することは現在行なわれていない.中毒の症状と食べたきのこを正確に同定し,それにもとづいて中毒 に対 する処置が行なわれている.従って,ここでは,日本の代表的な毒きのことその毒成分(きのこ毒),ならびに,中毒症状について主に解説した.さらに毒きの この種類や見分け方のポイントを簡単に記した.近年は遺伝子を調べてきのこの種をある程度同定できるようになったが,まだ 実用に耐えるところまでには達していないように思われる.今後の進展に期待したい.

 

           日本における きのこ中毒者数の推移

 

  中毒者数
Number of
poisoned person
死亡者数
Number of the dead
年次
Year
総計
Total
年平均
Person
/year
総計
Total
年 平均
Person
/year
明治19-44(1886-1911) 3,440 143 944 39.8
大正 1- 14(1912-1925) 1,870 134 234 16.7
昭和 1-20*(1926-1945) 3,138 157 230 11.5
昭和22**-36(1947-1961) 5,686 379 180 12.0
昭和37***-63(1962-1988) 9,010 334 47 1.7
平成1-19(1989-2007) 3,855 203 28 2.5
平成20-平23(2008-2011) 678 169 0 0

*終戦前 **昭和21年は統計なし ***一戸・二見氏統計(神奈川キノコの会会報2号.1980)
(今関1984に追加)