中毒を起こしたきのこを正確に同定するために


 きのこ中毒の場合,特に生死に関わるAタイプのものは一刻を争うので迅速で,正確な同定がまず必要である(2日以内に適切な処置を施した場合は助かった 例が多い).中毒者の食べ残しや,鍋の中の一片でもあれば,専門家が顕微鏡で見れば名前が判明する場合もある.全部食べてしまっていても,中毒の軽かった 人に現地を案内してもらい取り残しのきのこを採集して,専門家に同定を依頼するのもよい.自分で採集した人は意外と特徴をよく覚えているもので,ベットの 中で図鑑を見てもらうと,食べたきのこをがある程度判明することもある.

 

 最近は地方ごとのきのこ図鑑なども出版されているので, 名前も比較的調べやすくなったが,依然として不明種が多く,同定は困難である。日本各地にきのこ同好会があり,また地方の林業試験場などにもきのこに詳しい人が多いので相談してみるとよい.

 

 どうしても不明な場合は,標本や写真などの資料を添えて専門のきのこ研究機関に同定を依頼すると良い(鳥取市の菌蕈研究所,国立科学博物館など).写真 はひだの部分が写っているほうが好ましい.標本は乾燥標本または液漬標本のいずれでもよいが,乾燥標本にすると形や色が著しく変わる場合があるので,スラ イド(写真)を付けて同定を依頼するほうがよい.

 

 私の研究室では送風乾燥機を用い60℃で乾燥している.モミタケなどの大型のきのこ以外は1昼夜で乾き,形や色も比較的よく残る.大型のきのこは薄く切ってから乾かすとよい.
 液漬標本はもとの形や色がよく残り,展示などには役に立つ.私の研究室ではエタノ−ル:ホルマリン:水(25 : 5 : 70) 混合液を用いている.イグチ類の一部のものから,色素が溶け出して液が汚れるが,他の大部分のきのこは20年近く経過しても良好な状態で保存できている.